僕は狂っていく~ぼくるい~

創作小説「僕は狂っていく」まとめブログです。 ジャンルは現代モノです。 基本的に「奇妙な話」です。

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旅立ち 

(声に出すも何も……ハッキリと言って……って! おい! ――っ!!!)

いや、この際どっちでもいいことだ。
声に出ていようがいまいが、そんなことは私の命には関わりない。
鏡に背を向け、隼人くんの鞄を持ってドアの方に向かう。

――あれ?声が聞こえなくなった。

さっきまでハッキリと聞こえていた隼人くんの声、それがいきなり聞こえなくなった。
鏡で隼人くんの姿が見えていたことが関係してるのかな?
うーん……理屈はよく分からないけど。
そんなことは今はどうでもいいのだ。
一刻も早く、私は私の身体の無事を確認しないと!!

玄関に立ち、並んでいる靴をざっと見渡した。
四足ほどの靴が並んでいて、スニーカーが二足にハイヒールが一足、後はサンダルが一足。
私は大きめのスニーカーを履く。
思った通りにスニーカーはこの身体にピッタリなサイズだ。

ドアノブを捻ってドアを開ける。
予想通りに――ドアの外には全く見知らぬ風景が広がっていた。

玄関から足を一歩外に踏み出し……私は一つ、あることを思い出した。

「あ! 隼人くん、財布からお金、ちょっと貸してもらうね!」
[ 2007/02/28 23:40 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

一つ曲がり角、一つ間違えて 

自分の身体の生命が危機であるという気持ちに勢い込んで飛び出した見知らぬ土地は――思ったよりも手強い
いやいや……駅までの道が全く分からないのだ

そんでもって、道行く人に駅までの道を聞いてみようか、なんて思ってはみたものの、だ。

――もし隼人くんの知り合いに声をかけてしまったらどうしよう?

なんて心配が思い浮かんでしまって声をかけるどころじゃなくて。
そんなこんなで広い大通りにでも向かおうなんて思いながら道を探して歩きに歩いたんだけどさ。
どこをどう歩いてしまったんだか分からないんだけど――入り組んだ細い道に迷い込んで現在に至るわけです

うーん、何がどうなってこんな道に来たんだかね?
自分なりに一刻も早く自分の身体に会いに行こうという気持ちを最優先に行動してだね。
全く見知らぬ土地ということも考慮した上で……野生のカンを頼りに歩いたら――こんな場所に出てしまったというね……。

ハイ……あっさりと道に迷いました
いや、我ながらありえないとは思うよ。
時計を見てみれば隼人くんの家を出てからまだ十五分しか経ってないわけでさ。
そんな短時間で元の場所に戻ることさえ不可能なくらいに道に迷うとは――。

この状況、マジでどうしたら良いのでしょうか?
すでに道を聞こうにも人通りさえ無いような裏路地に迷い込んでしまったようで……。
[ 2007/02/28 23:39 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

的外れな野生のカン 

まるで見知らぬ裏道をトボトボと歩く。
全く知らない道なので本気で当ても無く、という言葉がピッタリだ。
見事に私を裏切る結果になった野生のカンにはなるべく頼ることなく――ただ、細い路地を避けて歩くだけなのだが。
それでも目的地である駅に近づけているという感覚はまるで無い

――出来るだけ急いだ方が良いんだけどね……。

自分で自分に『何をやってんだか』という気疲れによって、小さなため息を一つ吐き出してその場に立ち止まった。
本当に少しでも早く自分の身体の無事を確認しなければいけないのに。
何で……いきなり大通りから横道に入ってしまったのだろうか?

隼人くんが住んでいるマンションから出て、その入り口は少し大き目の通りに面していたのだ。
今さらこんな事を言っても仕方ないとは思うが――恐らくその道を歩いていれば駅にたどり着けたのではないだろうか?
なのに……その時、私は『この道を通れば近い』と直感的に感じてしまったのだ。

そして……その直感が見事に外れたおかげで裏道をトボトボと歩くハメになったワケで。

(おい! 何で休憩なんだよ!)

――!!

思案に暮れる私にいきなりキレの良いツッコミの声が入った。
ハッっと気が付くと――道に捨てられたガラス板に私と透けてる隼人くんの姿が映っていた
どうやら自分でも気が付かないうちにそのガラスが視界に入っていたらしい。

――助かった!!

これで隼人くんに道を聞ける!!
[ 2007/02/28 23:38 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

以心伝心 

(『助かった!』じゃない! 急に部屋から飛び出したと思ったら俺のことを無視し続けて……)

ん?何だかいきなり怒ってる?
いや、無視し続けてたつもりは無いんだけど……ひょっとしてずっと私に話しかけ続けていたのだろうか
声も何も聞こえてはいなかったんだけど――ひょっとしてこうやって隼人くんの姿が見えている時だけしか私には隼人くんの声が聞こえない、ということなのだろうか?

「えーと……とりあえず、無視してたわけじゃないよ?」

言い訳しても仕方ない。
隼人くんの怒りを鎮めるために、とりあえず無視していたつもりは無かったことを伝える。
……が、この言葉は少しだけ隼人くんの怒りの炎に油を注いでしまったようだった

(無視してただろ! こっちが何を話しかけても『あれ? 声が聞こえなくなった』とか)

あれ?声に出してたかな?

(『隼人くんの知り合いに声をかけてしまったらどうしよう?』とか!)

ん?独り言になってた?

(その度にこっちは『無視すんな!』とか『あれは知り合いじゃねーよ!』とか叫んでたのに……)

隼人くんはコブシを握り締めてプルプルと震えている。

――うーん、こんなにアツい幽霊も珍しい。
[ 2007/02/28 23:37 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

聞こえる声、聞こえない声 

(だからっ! 幽霊じゃねえよっ!!!)

ここで小気味の良いツッコミが隼人くんから一つ入った。
と、同時に――私は確信した

隼人くんは……私の考えていることが聞こえている

思っていることが分かる、とは微妙に違うようだ。
頭の中できっちりとした言葉になった、感情とは異なる思考……そんなものが隼人くんには聞こえるようだ。

――ふむ、だから『無視された』になるわけね。

(ん? 何がだよ? つーか無視してたのは事実じゃねえか!)

やはり、私の考えは概ね当たっているようだ。
心の中の呟きのようなものが……口に出さなくても隼人くんには聞こえているようだ。
まあ、隼人くんには口に出しているか否かの区別がついていないようだけど
これは……便利なような不便なような。
口に出さなくても意思の疎通が出来るということは便利だ。
しかし――迂闊なことは考えられないぞ

こうやって考えることが……どの部分が心の呟きとなって隼人くんに聞こえるか分かったものではない。

しかも、部屋からここまでの様子を鑑みるに、私の心の呟きまで含めた言葉は隼人くんには常時聞こえていても、隼人くんが話す声は――どうやらこうやって隼人くんの姿が映っている時にしか私に聞こえないようだ。

これは――非常に不便な……。
[ 2007/02/28 23:36 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

近道 

(んでよ、何が不便とかは知らんが――いつまで休憩するんだ?)

あ!!
そうだった!!
思いもかけない新発見に忘れてしまうトコだったけど……急がないといけないんだった!

「休憩してたんじゃないのよ! 道! 道を教えて!! 駅までの!!」

幽霊に道を教えてもらうという非常識はとりあえず置いておいて。
絶対に安全パイ、声をかけても絶対に自分の身が危うくならないのは――この目の前にいる隼人くんくらいなものなのだ。
駅までたどり着けることが出来れば、後は自分の住んでる場所まで行くのはそう難しいことではない。

(道? 何を言ってるんだ? お前は)

――へ?

隼人くんが呆れたような顔で私を見ている。
いや、そんな呆れたような表情で見なくても……。
私にとっては全く見知らぬ土地なわけで。
いかに近い駅に住んでるとは言っても、さすがに自分が用の無い駅の周辺の地理を理解してるワケもないわけで……。

道に迷っても仕方ないじゃんね?

「し、仕方ないでしょ!? まるっきり知らない場所なんだもん!」

さすがにバカにされた、と思い紅潮する顔を自認しながら隼人くんに言い返す。
……が、隼人くんの次の言葉に……私が唖然とするハメになる。

(だから、何で今さら道を尋ねてるわけ?)

隼人くんの言葉の意図をイマイチ掴めず、何も返せない私を見ながら隼人くんがスッと指を細道の先にある曲がり角に向けた。

(あの角を曲がれば駅。 何で目的地の手前で休憩してんの?)
[ 2007/02/28 23:35 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

ナイス勘!! 

「え? あの……先なの?」

いや、自分でも間抜けな話だとは思う。
急がないといけない、って思い切り意気込んで家を出発して。
近道だと思った道が思った以上に細く曲がりくねった道で。
迷ったと思って途方に暮れて。
立ち尽くしてしまた場所が――まさか目的地の手前だったとは。

隼人くんは呆気にとられる私をまるで小動物でも見るような目で呆れながら眺めている。

――うう、そんな目で見ないで……。

(……本当に道に迷ってたのか?)

本当に信じられない』――そんな顔だ。
だって、自分の野生のカンを頼りに歩いたんだもん。
駅の気配は感じることは出来ないし、大体さ、駅の近くなのに何でこんなに人の気配の無い道なのよ!

一応コクンと小さく首を縦に振って隼人くんに肯定の意思を示す。
隼人くんは両手を広げ、首を横に捻って呆れるような、驚いたような、そんなゼスチャーを見せた。

(ズンズンと近道へ進んで行くから……てっきり道も分かってると思い込んでたよ)

――へ?ち、近道ぃ!?

私の思ったことが聞こえたのだろう。
隼人くんが大きく頭を縦に振る。

道に迷った――そう思い込んでいたが、どうやら私は無意識に『正しい道』を進んでいたらしい

――ナイス!ナイスだ!野生のカン!!
[ 2007/02/28 23:34 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

おさらい 

電車に乗るまでの流れは存外スムーズなものだった。
駅前という人が集まる場所、本当に隼人くんの知り合いに会ってしまうのではないか、そんな心配は杞憂に終わる。

駅前に向かう前、道端に捨てられたガラス板に映る隼人くんに再度『お金、貸してね』と確認を取った。

(ち……仕方ねえな)

渋々ながらお金を貸しておいてくれることを承諾してくれた隼人くん。
財布の中からお金を借りて希望が丘駅から一区間、私の住む光が丘駅までの切符を買った。
改札を通り、電車を待つ間――私はできるだけ考え事をしながら待つことにした

隼人くんが私の考えていることが聞こえるならば――これまで思いついたことをわざわざ説明する手間が省ける――そう思ったからだ。

エスカレーターに乗り、ホームへ着く。
時刻表をチェックすると次の電車の到着まであと五分といったところだった。
白線に沿って並び電車を待つ。

ここまでで私に分かっていること――。

――目が覚めたらいきなり隼人くんの中に入ってて。
――鏡やガラス越しでないと隼人くんの姿は見えなくて。
――隼人くんの姿が見えてないと私に隼人くんの声は聞こえなくて。
――私の考えていることは隼人くんに聞こえているみたいで。


えっと……後は何があったかな?

――私は隼人くんの中に入ってる。
――でも隼人くんの魂(?)は目の前に居るわけで。
――じゃあ、私の身体はどうなってるの?
――中身が空っぽっていうことじゃないかな?


う、だから隼人くんとの話をそこそこに切り上げて慌てて外へ向かったわけで。
私の身体が空っぽになってるってことは……もしも死んでるとか勘違いされたりしたら大変じゃない?
というか、魂が抜け出てるということは本当に身体は死んでしまっているのではないかという最悪の事態まで想像してしまう。
そうでないことを祈るしかないのだけれど……とにかく一刻も早く自分の身体の無事を確認しないといけない。

そんな事を考えているうちに――電車がホームに到着した。
[ 2007/02/28 23:33 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

テレパシー……のようなもの 

電車の中、座席は空いていてたのだが――私は敢えてドアの横に立つ
その方が窓ガラスと自然な形で向かい合わせになることが出来るからだ

プシューという音と共にドアが閉まり、私の目の前に窓ガラスが来る。
その窓ガラスには隼人くんの身体に入った私が映り、その背後には隼人くんの霊の姿が透けて映っている。

――大体は理解してくれたかな?

隼人くんに問いかけるように、心の中で思う。
心の中で思うぶんには電車の中の他の乗客に怪しまれることもない。
隼人くんの声にしたって私以外の誰にも聞こえることはないだろう。
誰に邪魔されることもなく隼人くんの姿が見える場所でさえあればこうやって会話が出来る。
不便なこともあるが……こういう部分では便利なものだ。

(まあ……大体はな)

私の問いかけに隼人くんがそう答える。
隼人くんもいきなり私に身体を乗っ取られて分からないことだらけなのだろうけど、それは私だって同じことなのだ。
原因が分からない以上、元の身体に戻る方法も分からない。
しかも――私の元の身体が無事なのどうかの保障さえないのだ

戻る身体が無くなってしまう、そんな状況になってしまえば元に戻るという話さえ成り立たなくなってしまう。
まずは私の身体の無事を確認して、その上でこうなった原因を探ることと、元に戻る方法を探るしかないと思う。

(そんでよ、今からドコに向かうんだ?)

――私の家!

(お前の家に行ったら、その、お前の身体の無事を確認できるのか?)

――え?……たぶん。

隼人くんに問われて初めて気が付いた
そういえば……私って隼人くんの姿だっけ。
私の家に向かうは良いんだけど……どうやって私の身体に会えば良いんだろうか?
[ 2007/02/28 23:32 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

ビューティフルサンデー 

さて、本当にどうやって私の身体の無事を確認すれば良いのだろうか?
私の記憶が確かならば、というか前の日に眠って起きたら入れ替わっていたという感覚が正しければ今日は日曜日……のはずだ。

――今日って『日曜日』だよね?

念のためにキレの良いツッコミを特技とする相方に確認をとる。
幽霊という姿をとっている、自分以上に現実離れした人間に物事を確認しなければいけない自分が少し悲しい。

(ん? 日曜だけど、どうかしたか?)

うん、一応その辺りの記憶は間違っていないようだ。
朝から電車に乗っている人も少ないし、電車が来た時間も日曜ダイヤの通りだし。
状況から類推すれば日曜ということは間違いないけれど、人に確認できるならそれが一番安心できる確認方法だと思うわけで。

――日曜……か。

自分の普段の行動に照らし合わせれば、日曜のこの時間には多分起きている。
少しだけいつもより長く寝てはいるけれど、そろそろ起き出してトーストをかじりながら日曜朝のワイドショーでものんびり観ているくらいの時間だ。

え?いい歳した女子高生がそんな生活で良いのかって?
仕方ないでしょうが……日曜だと言ってもデートをする彼氏が居るわけでなし
と、とにかく……だ。
私の身体が現在どうなっているか分からない。
隼人くんの霊がココに居るってことは空き家になっている可能性が高いということだし、もしそうならばまだ起き出してこない私を心配して家族の誰かが私の様子を見に行ってしまいかねない時間でもある。

家の外から私の部屋を覗くという方法が確実かもしれないけど……何だかそれは変質者チックで嫌な気もする。
が、そんなワガママを言ってる場合でもないし……。

――ねえ、隼人くん。ちょっとくらいなら、私の家のご近所さんに変質者に間違われても平気かな?

(平気なわけないだろうがっ!!)

ですよねー。
[ 2007/02/28 23:31 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

思案に暮れる 

(んで、どうすんだよ?)

隼人くんの冷たい視線に、追い立てるような質問の声。
『どうする?』とは、もちろん私がこのまま私の家に行って――どうやって私の身体の無事を確認するか、ということだ。

いや、全然考えてなかった。
もし、最悪の予想が当たり私の身体が空き家状態になっているのならば……私の身体の無事なんて確認しようがない
このまま家に行ったところで顔を合わす方法が無いのだ。

やはり――ここは一つ隼人くんに変質者の汚名をあえて着ていただくしか……。

(やらないから! やらせないからな!!)

ああ、また心の声が漏れてしまったようで。
かと言って、どうも良い方法は思い出せない。
このまま自分の身体の無事を確認する方法もないまま、とりあえずで家に向かっても良いものか……。

(――あのよ)

思わぬ行き詰まりに思考が固まりかけの私に隼人くんが話しかけてくる。

――え?

このまま思案に暮れていても名案も浮かびそうもない。
とりあえず隼人くんの言葉に耳を傾けてみようと思う。
話しかけの口調からして、隼人くんからも何か話したいことがあるみたいだし。

(一つ聞きたいんだけどよ)

はいはい、何でしょう?
口にも、心の声にも出さずに、首を少し傾けて隼人くんの言葉に応える。

(お前ってよ、携帯とかも持ってないのか?)

――あっ!!

そういえば、そういう文明の利器もありましたよね!
[ 2007/02/28 23:30 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

文明の利器の以外な弱点 

隼人くんの鞄から早速……文明の利器を取り出す。

そんで……番号をプッシュ……というのが極めて自然な流れではあるのだけど。

(……どうした?)

う……そんな不審者を見るような目で私を見ないで。
隼人くんが片方の眉を下げて、訝しむという表現がピッタリな目線で私を見ている。
番号をプッシュする段階になって私の動きがピタっと止まってしまったので、隼人くんが私に対して「おかしいな」と思うのは当然だとは思うけど。

――そういえば……私、自分の携帯の番号覚えてなかったり……。

(アホか!!)

だってー!!
仕方ないじゃない!
自分の携帯に電話をかける機会なんてほとんどないし。
誰かに番号を教えるときだってワン切りとか赤外線通信とか便利な機能が盛りだくさんだし。

いや、言い訳してる場合じゃない。
せっかく携帯で自分の身体の無事を確認するというアイデアが出たのに。
このままだとせっかくのナイスアイデアが無為になってしまう。

――うーん、どうしたもんかね?

悩みとも、質問ともつかないような口調で隼人くんに助言を請うてみる。

(番号を覚えてない……か。だったらアドレスは?)

――あ!!それなら覚えてる!!

うん、実に役に立つ相方だ。
[ 2007/02/28 23:23 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

冷ややかな視線 

――maria-17@xxmoweb.ne.jp……っと!

アドレスを入力して、件名、本文を打ち込む。

title:私だけど
本文:無事!?
    ちゃんと生きてる!?


うーん、我ながら意味不明なメールだこと。
でも、これくらいしか書きようがないんだよねー。
ちゃんと返事が来ればとりあえず一安心なんだけど。

いや、一安心というワケにもいかないか。
返事が来るってことは、誰かが私の身体の中に入ってるってことで。
私が入ってる隼人くんの中身がこの場に居るってことは、私の中にはさらに別の人が入ってるってことで……。

――うーん、返事が来ても来なくても安心は出来ないわけ……か。

(まあ、そういうことだよな)

隼人くんが間髪入れずに私の思い浮かんだ心配を肯定する。
え?隼人くんはメールを送ったところでこうなることが分かってたということ?
じゃあ、何故に最初からそう言ってくれないの?

「え? な、何か知ってるの!?」

思わず口に出てしまったような気がする。
その証拠と言わんばかりに、電車内の数少ない乗客の皆様の視線が心なしかコチラに向いているような気がする。
うん、周囲に誰も居ないのにいきなり空中に向かって話しかけるのは……春先に多く出現するような方々くらいなもんだよね。

咄嗟に誤魔化すために、手に持った携帯電話を耳に押し当ててみた。
夢の世界に行ってしまっている人に見られるよりは、車内で携帯を使う非常識な人に見られた方が幾分かマシなような気がしたからだ。

そんな私を、またも冷ややかな目で見ながら隼人くんが一言。

(……ちょっと頭を働かせれば分かることだろうが)

う……。
冷たい視線の連発はさすがに心に堪えます。
[ 2007/02/28 23:22 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

名前 

隼人くんは黙ったまま私をじっと見ているし、私は思わず声を出して叫んでしまったのが恥ずかしくて何も言えなくなってしまってるし。
時間にして僅かなものだけど、ついにはいたたまれなくなって俯いてみた

確かにメールを送ってみるまで何も気が付かなかった自分も多少は鈍いとは思う。
でも……もう少し隼人くんも協力的になってくれても良いじゃない。

そんな恨み言にも似たような感情を抱く。
すると、突然だ――。

(お前の名前……『まりあ』っていうのか?)

隼人くんが聞いてきた。
あれ?
言ってなかったっけ?

コクンと頷いてみる。
そういえば……朝からひたすらバタバタしていて自己紹介すらしていなかったような気がする
隼人くんはアゴに手を当ててこちらを見ている。

(ふむ、『女かな?』とは思ってたが……やっぱり女だったのか)

え?
何?その微妙に失礼な言い回しは
かなり引っかかるものを感じるけど、この機会に自己紹介はしておくべきかな?

元に戻る方法について、何かヒントになるかも知れないし。
[ 2007/02/28 23:21 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

今さらですが自己紹介 

――うん、まりあ。中道 真里愛だよ。

私が隼人くんの名前を知ってしまっていたから、既に自己紹介をした気になってしまっていたが……。
まあ、細かいことは気にしてはいけない。
少し遅くなってしまったがこれで自己紹介は済ませたぞ!

(中道……真里愛、ね)

隼人くんは自分の頬をポリポリと人差し指で掻いている。
視線は私の方ではなく、電車の天井部分に――何か引っかかるものがあるような仕草だ。

――ん?どうかしたの?

何か引っかかりがある様子。
気になるのでストレートに質問をぶつけてみる。

(いや、珍しい苗字だよな)

ああ、そうかな?
生まれてこの方、ずっとこの『中道』という苗字で育ってきているのでそんなに珍しいとは思ってない。
確かに同じ苗字の人が学校に居たこともないし、同じ苗字の芸能人でさえ見たことはない。

いや、でも有名人……と、言えるかどうかは分からないけど、世間に名前が出てる人も居る。
作家をしている私のお父さんだ。

名前が『中道 隼人』でペンネームもそのまま。本名で活動している。
メチャクチャ有名ではないと思うけど、そこまでマイナーでもない……はず。

だから、そこまで珍しい苗字だとは思わないんだけどな。
[ 2007/02/28 23:20 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

同じ名前 

お父さんのことを思い出して、そういえば隼人くんの名前とお父さんの名前は同じだな……と、今さらながらに気が付いた。

人の名前なんて、しかも下の名前なんてものは同じなんてことはよくある話だから、こんな『他人と身体が入れ替わる』なんて超常現象を体験している現在では名前のことなんて珍しくも何とも感じないわけで。

これはちょっとした話の接ぎ穂になるかな、なんて。
少しでもお互いの情報を共有すれば、元に戻る方法を探るときに役に立つかもしれないし。

――あのね、私のお父さんの名前も『隼人』なんだよ。

(え? そうなの!?)

んん?
何だか思いのほか食いついてきた
同名なのがそんなに興味をそそったのかな?

――うん、『中道 隼人』っていうの。字も同じで隼に人で『はやと』、作家さんなんだよ。

正直、けっこう自慢のお父さんだ。
普段はクールな感じなんだけど、本当はとても優しい。
人前だとかなりツンな性格だけど、家族だけの時だとデレに変わる。
見た目もかなり格好良いし、小学校の時の父兄参観のときなんかはかなり優越感に浸らせてもらったものだ。

残念な事といえば……私はかなりお母さんに似てるというところだろうか。
チビだし、眼鏡だし、三つ網みお下げだし……貧乳だし。
[ 2007/02/28 23:19 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

親近感 

(作家……作家って、『人形使いは闇に踊る』の中道さんか!?)

何だか興奮気味に隼人くんが聞いてくる。
『人形使いは闇に踊る』は確かにお父さんの作品だ
隼人くんの思いもよらぬ興奮度合いにちょっと引いてしまいそうになるが、それでもお父さんのおとが知られていると分かるとちょっと嬉しかったりする。

口には出さずに、コクンと小さく頷いて隼人くんに肯定の意を示す。

(マジか!? スゲエ! サイン貰っても良いかな!?)

いや、また興奮レベルが上がっている。
というか、こんなにお父さんのことを聞いて興奮する人は初めて見た。

確かにお父さんはそんなにマイナー作家ではない。
大学生の頃から作家として活動してたそうだし、賞も何個か貰っている。
そこそこのヒット作も出してるし、ファンが居ても不思議ではない
でも……ここまで興奮しないといけないものなの?

――は、隼人くん、落ち着いて!

まずは興奮しきっている隼人くんを落ち着かせるのが先決だ。
目をキラキラさせて、息も興奮で荒くなっている隼人くんをなだめる。
隼人くんって、興奮するとこんな感じなのか……。

クールを装っていながらも少し興奮すると素の部分が出る辺り……何だかお父さんに似ている
名前といい、性格といい、お父さんのファンなところといい。

なんだか……とても親近感が沸いてくる
[ 2007/02/28 23:18 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

天然さん 

(あのさ、俺さ、子供の頃から中道さんのファンで――)

こちらからの返答を待つこともなく、隼人くんは先ほどから興奮したままでどれほど隼人くんが私のお父さんのファンであるかを語る。

(ウチに中道さんの本も全部揃ってるし、ずっと憧れてるんだよ!)

お父さんのファンであることは嬉しいし、娘としては本当にありがたい存在だと思う。

(まさか同じ市内に住んでるなんてな! 本当にスゴイよな!)

だが、出来ればこんな状況でない時にそういう話はして欲しいわけで――。
お父さんの話ばかりしていたら、本筋である『元に戻る方法』を探れないじゃないか!

――隼人くん!

心の中で、ちょっと強い口調で呼びかける。
このままだと電車が駅に着くまで、ずっとお父さんの話を続けてしまわれそうだし。
そうなってしまうと本当に話が全然進展しない。

これだけの異常事態に直面しているというのに、全くもって話が進展しないというのは非常に精神衛生上悪い。
ぶっちゃけて言えばイライラする

(ん? 何だ?)

私の強い口調に、キョトンとした表情で隼人くんが答えてくる。
まるで『一体どうしたんだ?』と言いたげな様子。

この人……自分が幽霊になっていることを忘れているんじゃないだろうか?

この天然ボケが入った感じ……本当にお父さんを思い起こさせる。
[ 2007/02/28 23:17 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

着信あり 

――あのね、今は私のお父さんのことよりも、私たちが元に戻る方法を考えなきゃ。

回りくどい方法はとらず、流れを本筋に戻すために本題をストレートに口にする。
いや、お父さんのことを話題に出して、流れをズラしてしまったのは私なんだけどね。
まさか隼人くんがここまで食いついてきて、大幅に話が脱線するとは思っていなかった。

(――お、おお。そうだよな)

私の言葉に、ようやく隼人くんの興奮も収まったようだ。
これで話も本筋に戻せる。

とは言っても、話し合ったところで解決策が出るとは思えないんだけどね

それでも私のお父さんの話を延々と続けるよりは生産的だと思う。
何の足しになるかは分からないけど、話さないよりは遥かにマシだ。
少しでも、ほんの少しでも良いから元に戻るヒントを……。

ブゥーン……ブゥーン……ブゥーン

何の話を切り出すかを考えていたその時だ――。
鞄の中から電車の振動音とは違う、細かい振動音が体に伝わってきた。
慌てて携帯を鞄の中から取り出す。

メールの着信を知らせるマークが携帯のディスプレイに表示されている。
隼人くんの顔を見る。
こちらを見ながら、コクンと小さく頷き『メールを開け』という意思表示を見せる。

メールの差出人は――私の携帯からだった!
[ 2007/02/28 23:16 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)

誰? 

私の携帯からの着信……ということは、私の身体の中には誰かいるということか?

もし、私の身体が先ほどまで懸念していたように『空っぽ』だったとしよう。
だとすれば、私の携帯を誰かが触ることはないはず
いかに私の身体が空っぽだとはいえ、お母さんが寝ている私の携帯を勝手に触るとは思えない。
第一、身体の中に魂が入っているかどうかなんて外見から判断なんて不可能なのだから、他の人から見れば空っぽになっている私の身体は眠っているようにしか見えないのではないだろうか

だが、こうして私の携帯から隼人くんの携帯にメールが届いた。
これの意味するところは……私の身体の中には誰かが居て、私が先ほど隼人くんの携帯から送ったメールを確認した。
そして、そのメールに返信をしてきた、ということだ。

一体……誰が?

こうして私が隼人くんの身体の中に入ってしまっているのだ、常識的に考えれば私の身体の中に居るのは隼人くん……のはずなのだが。
隼人くんの魂は現在、こうして私の隣に居る。
だとすれば、私の身体を使っているのは――隼人くんではない。

幾つかの疑念を感じながら、携帯に届いたメールを開いてみることにした。

差出人:maria-17@xxmoweb.ne.jp
題名:Re:私だけど
本文:無事って、一体誰だ?

    
え?
あれれ?
逆に、誰かと聞かれてしまった。

差出人は私の携帯だし、送ったのは私だし。
確かに送った文面が悪かったのかもしれないけど……私の携帯を使ってるアナタこそ誰なの!?
[ 2007/02/28 23:15 ] 番外編 Change ~type R~ | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

黒矢 一実

Author:黒矢 一実
主に短編小説を書いています。
現在のところ更新は不定期です。
コメントを頂けると非常に嬉しいです。
リンクはフリーです。
リンクされる際にメッセージを一言いただければ嬉しいです。
相互リンクも募集してます。

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