僕は狂っていく~ぼくるい~

創作小説「僕は狂っていく」まとめブログです。 ジャンルは現代モノです。 基本的に「奇妙な話」です。

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ラッシュアワー 

都市部に向かう朝の電車は今日も混雑している。
仕事へ向かうサラリーマン、学校へ向かう学生、
はたまた所用で朝から出かける者、様々な人間が乗り合わせている。

ここに集まる者はほとんど面識は無く
毎日同じ車両に乗り合わせていても顔くらいは知っていてもおかしくないのに
実際は顔すらもほとんど覚えていない、つまりは完全な他人である。

しかし、ある日のことだ。
その電車の先頭車両に乗り合わせた人間は他人同士であるにも関わらず
奇妙な連帯感に満ち溢れていた。

ある痩せた貧相な顔つきのサラリーマンが真剣な面持ちで車内で叫んだ。

「みなさーん! 私と大きなことをしてみませんかー!」

朝のラッシュアワーの車内にその声は大きく響き渡る。
思わず男に注目する者、関わりになりたくないと無視するもの
大声を出している男を非難がましい目で睨む者
ヘッドホンの音楽のため最初から男に気が付かない者。

反応は様々であったが、男はそれを意に介さず自分の計画を一方的に話し続ける。

その計画は全くもって無意味であり、不道徳的であり、非生産的であり
また現実離れしたものであった。
それにも関わらず、その場にいた人間たちはその男の計画に魅力を感じてしまった。

その原因は現代社会が抱えるストレスだったのだろうか?
はたまたその場に奇妙な力でも働いたのであろうか?
その理由を推察することは計画者である男は勿論、その場にいた誰も説明しようも無いものだった。

かくして、男の計画は実行に移される日を迎えてしまう。

男の計画に乗り、先頭車両に乗り込む人々。
その表情は緊張とも、またこれから自分たちが引き起こす現象への興奮ともつかない表情をしている。

途中まで電車は何の支障も無く運行していく。
ラッシュアワーの人波を限界まで詰め込み
終点である都市部の駅へと進む。

やがて電車は大きなカーブに差し掛かった。
カーブによる遠心力のため乗っている乗客が一気に同じ方向に傾く。
そこまではいつもの光景だった。

――ただ、この日違ったことは

先頭車両に乗っている乗客のほとんどが体重を一気に遠心力の働く方向に傾けた。

通常のスピードのままカーブに進入した電車は
乗客の体重に負け、レールから外れる。

横転する電車、潰れていく中の乗客。
テレビ、新聞では大惨事と報じられ
関係者も、そうでない者まで目を覆うばかりの大事件に発展した。

しかし、調査が進められていき
幾つかの事実が判明した後でも
決して報道に乗らず、関係者が口を噤んだ事実が一つあった。

生存者が居なかった先頭車両。
その先頭車両の乗客は……ほぼ全員が達成感に満ちた表情で死亡していた。

一人の男から生まれたはずの狂気は、理由も分からぬまま多数に感染していた。
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[ 2007/01/03 09:59 ] 掌編 | トラックバック(-) | コメント(-)

夢の少女 

男は毎晩夢を見る。
夢に出てくるのは古びた公園と一人の少女。
夢の中では青年であるはずの男の体は少年に戻っている。
毎晩のように男の中で甘美な悪夢は繰り返される。

公園に入るところから夢は始まる。
植え込みに囲まれた公園。
視界に入るのはブランコ、砂場、滑り台、ジャングルジム中央には広場があり人影は無い。
男は遊具を見回す。
……いた。
今日は少女は滑り台で遊んでいるようだ。
薄いノースリーブのピンクのワンピースを着て一人で無心に滑り台を登っては滑る、その動作を繰り返している。
男は愛しいものを見る眼差しでそれを眺める。

4、5回も滑るのを繰り返した頃少女は少年になった男を見つける。
こちらの様子を見て微笑みながら手招きをする。
明るい、天使のような笑顔で。
こちらに気が付いてくれたことが嬉しくて少年は大急ぎで少女の方に駆け寄る。
そして、しばらく少年は時間を忘れて少女と遊ぶ。
少年が少女を追いかけるように時には少女が少年を追いかけるように。

お互いに微笑みあいながら遊ぶ幸せな時間。

やがて、少女がふざけながら滑り台を滑るのに失敗する。
着地の時に躓き、膝を擦りむき少し涙を流す少女。
慌てて少女の傍に駆け寄り涙を流す少女に手を差し伸べる。
少年を見上げ、少年の手に掴まろうとする少女。

だが、少女の手は少年の手に触れることができない。
何度掴もうとしてもその度に手がすり抜けてしまう。
少女の涙はいつまでも止まらない……
少年は途方に暮れる……

そこで男は目を覚ます。
それがいつものことだからだ。
場面は先ほどのような滑り台だったり追いかけっこをして少女がこけたり、砂場の山にトンネルを掘って、トンネルが貫通したのに手は掴めなかったり。
状況は様々ではあるが決まっていることは一つ
『少女の手を掴めず、少年は途方に暮れる』
この夢の終わり方だけが常に決まっていることなのだ。

この夢を見た後は必ず頬に涙が伝っている。
喪失感のような悲しみ
望みの叶わない絶望感
それが入り混じったような感情が涙を流させている。
だが、それでも男は眠る。
この夢を見れることをいつも期待しながら。
なぜならば男はこの少女に恋してしまっていたから。
淡い恋ではなく、確実な恋心を抱いていたから。

ある日、男はいつもと違う夢を見た。
夢の中で少女が男の手を取る。
いつものように少年の手をすりぬける少女の手。
しかし、この日少女の手は少年の手を握った形のまま自分の胸の辺りに手を持っていった。
その動きにつられるように少年の手は少女の胸の辺りまで動く。
少女の胸に触れそうな距離になった時少年は手を止める。
このまま手を動かせば少女の体に触れることはなく自分の手は少女の体をすり抜けるであろうことは分かっている。
それでもそこは触れてはいけない部分であるような気持ちになり
少年は自分の手を止める。

そんな背徳感の中、手を動かせずにいると少女が少年の瞳を見ながら大きく頷く。
まるで、そこに触れることが自らの望みであると告げるように。
少女の仕草を見て少年は手を動かす。
案の定、少女の体をすり抜ける少年の手。
やはり、自分は少女の体に触れることはできない。
ここで途方に暮れて夢が覚めるのか、そう思った時
トクン……トクン……トクン……
少年の手に感じる鼓動。
それは明らかに少女の心音だった。
顔を上げると、そこには少年を見つめている少女の姿
目が合うと大きく頷く。
まるで……何かを少年に伝えようとしているような姿。
少女に向けて大きく頷く少年。
『伝えたいことは分かった』
そう少女に告げるように大きく、大きく頷く。

その姿を見て微笑む少女。
微笑んだ姿を見て希望に包まれたような
温かい気分に満たされる少年。

男はそこで目が覚めた。
今日は頬に涙は伝っていない。
寝起きのままの格好でもう一度瞳を閉じる。
そしてひとしきり考える。
少女は……自分に何を伝えようとしていたのか。

男はある考えに行き着く
『少女も自分と触れ合うために体が欲しいのだ』
それは男の中で確信となる。
恋焦がれる少女と触れ合うための希望。
だが、男は冷静に考えるべきだった。
今日見た夢の中の少女が最後に見せた微笑。
それが天使のような微笑ではなく妖艶さに満ちた微笑だったことを。

夢の少女に体を与えるために男は色々な方法を試みる。
眠る前に少女の体を必死にイメージしたり
布団の中に人形を入れてみたり、思いつく限りの方法を試す。
だが、少女に体が与えられることは無く
以前のように最後は途方に暮れる夢が繰り返された。
だが、男はあきらめない。
憧れの、恋焦がれる少女に体を与えその手をしっかり握るために。

やがて男は狂気にとり憑かれる。
『やはり本物の体を捧げないと駄目なのだ』
あの少女に相応しい、本物の人間の体を。

男は妄想を現実に実行する。
少女に体を捧げるために
現実の少女の体を一つこの世から無くすのだ。
そうすれば、夢の世界に少女の体が送られるはずだ。

慎重に品定めをして少女に似た背格好の女の子を見つける。
その少女が一人になるのを見計らい強引に少女を山奥まで拉致する。
少女の服を全て脱がし隅々まで観察する。
夢に送るその前に自分の記憶に焼き付けるように。
そして、そのまま首を絞めて殺す。
死体は山の中に埋める。

これで、夢の中の少女に肉体が届けられる。
男の狂気に支配された儀式は滞りなく終了した。
……そのはずだった。

夢の中の少女に肉体は与えられていなかったのだ。
何度その体に触れようとしても少年の手は少女の体をすりぬけていく。
またも途方に暮れる少年。
だが、夢はここで終わらなかった。
途方に暮れている少年を見つめながら少年の胸の辺りに手を持っていく少女。
その手は少年の心臓を指差していた。
(この心臓が必要なのか?)
そう思い少女を見ると満足そうな微笑を浮かべ少女は大きく頷いた。

そこで男は夢から覚めた。
そしてそのままベッドを降りキッチンへ向かう。
包丁を取り出し、迷うことなく自分の胸につき立てた。
少女への愛情と、自分の望みを叶えるために。
床に広がる大量の血、薄れていく男の意識
しかし、男の表情は幸せそのものだった。

薄れいく意識の中で……男はしっかりと少女の手を握れた。
[ 2007/01/03 08:59 ] 掌編 | トラックバック(-) | コメント(-)

独 

孤独を欲した僕が一番最初にしたこと。
それは『仕事を辞める』ことだった。
人生に絶望したわけでもない
この世に愛想をつかしたわけでもない
ただ孤独になりたかった。
独りぼっちになりたかったのだ。

ただ、独りになるには……障害が多すぎる。

仕事を辞めるとき
会社の部長に引き止められた。
「今のプロジェクトは君がいないと回らないんだよ?」
知ったことじゃない。
僕は孤独になりたいのだ。
「引継ぎはちゃんとしてくれるよね?」
一応マニュアルは残しておいた。
引継ぎのために誰かと関わるのも煩わしい。
僕は孤独になりたい。
誰とも話をしたくないのだ。
誰も見たくないのだ。
誰にも見られたくないのだ。

独りぼっちになるのは本当に難しい。

会社をやめて一週間。
独り暮らしの部屋に引き篭もる。
でも、独りぼっちにさせてくれない。
ひっきりなしに電話が鳴る。
「プロジェクトのことなんですが――」
「休職扱いにしてあるから早く戻ってきてくれ――」
「体調でも悪いんですか?」

五月蝿い、うるさい、ウルサイ!

僕は携帯電話を地面に叩き付けた。
粉々になった携帯電話。
僅かに感じる恍惚感。

僕は、少しだけ独りぼっちに近付いた。

二週間が経った。

部屋に彼女が尋ねてきた。
「電話も通じないし、メールも返信してこないし――どうしたの?」
関係ないことだ。
「何!? この部屋! テレビも壊して、携帯も!」
何でそんなに五月蝿いんだ?
僕は独りになりたいだけなんだ。
お前にも会いたくないんだ。
「どうしたの? 何か話して? 私が何かしたの?」
何もしてない。
何もして欲しくない。
僕を見るな!
僕に話しかけるな!

僕は彼女を部屋から追い出す。
僕は……ただ……独りぼっちになりたいんだ。

三週間が経った。

彼女が母親を連れてきた。
「急にどうしたの? 何かあったの?」
どいつもこいつも――
何か無いと独りぼっちになっちゃいけないのか?
僕は……独りになりたいんだよ!

部屋は静かになった。
僕しかいない部屋。
静かで落ち着く。
独りぼっちは心地良い。

一ヶ月が経った。

「電報でーす!」
玄関の方から声がする。
ドンドンドン!
何度もドアを叩く。
ドンドンドン!
何度叩く気だ?
なぜ僕の独りぼっちを邪魔するんだ?
「げ……ゲンカンに置いテおいてくだサイ」

一ヶ月近く黙っていたせいか声が上手く出ない。

カタン、ポストに電報が放り込まれる音。
やっと訪れる静寂。
電報は父からだった。
「ハハレンラクナシ シキュウレンラクセヨ」
知ったことでは無い。
でも、僕はあることに気が付いた。

僕を覚えている人間がいる限り……僕は本当の独りぼっちになれない。

五週間が経過。

僕を覚えている人間はもういない。
僕も誰のことも思い出さない。
静寂に包まれた部屋で
この世に独りぼっちという快感を思う存分味わう。

ドンドンドン!!

僕の世界を壊す
激しくドアを叩く音。
「開けろ! いるのは分かってるんだ!」

ウルサイ……僕は独りぼっちでいたいんだ。
「ドアを破れ!」

ヤメロ……僕は独りでいたいんだ。
「いないぞ!? 部屋の中を探せ!」

探すな……僕の独りを邪魔するな。
「この箱は何だ?」

触るな……僕の独りぼっちの空間に。
「いたぞ! 早く逮捕しろ!」

何故だ?……なぜ邪魔をするんだ?
「死体もあったぞ! 捜索願いの出ていた女性二人の死体だ!」

うるさい……ウルサイ!
「お前を逮捕する。容疑はこの二人の殺害、及び父親と会社の同僚の殺害容疑だ」

僕は独りになりたいだけ……独りになりたいだけなんだ。
「おい! どうした!?」

僕は自分で舌を噛み切る。
この五月蝿い空気に耐え切れない。
意識が自分の内側に向かって閉じていく。
ああ……早くこうすれば良かったな。

僕は、やっと――独りぼっちになれた。

[ 2007/01/03 07:59 ] 掌編 | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

黒矢 一実

Author:黒矢 一実
主に短編小説を書いています。
現在のところ更新は不定期です。
コメントを頂けると非常に嬉しいです。
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