僕は狂っていく~ぼくるい~

創作小説「僕は狂っていく」まとめブログです。 ジャンルは現代モノです。 基本的に「奇妙な話」です。

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桜 

「また来たんだね」

桜の木の下、幹にもたれるように立っている彼女が僕に向かって言う。
少し暖かさを覚え、桜の花が満開になるこの季節。
どうしても僕はここに足を運んでしまう。

「今日はどうしたのかな?」

彼女の傍に近寄っても無言のままでいる僕に向かって彼女は優しく尋ねてくる。
いつだって彼女は優しい。
包むような優しさで僕を受け入れる。
その優しさが心地よくあり、胸が痛い。

「君にまた会いたくなってね。特に用事はないんだ」

正直にここへ来た理由を話す。
それでも彼女は僕を受け入れてくれることは分かっているから。

「そっか」
僕の答えに彼女も短くそう答えるだけだった。
深くは聞いてくることはない。

二人とも黙ったまま時間は過ぎる。
時折風が吹いて周囲に桜の花びらが舞う。
その様子はこの世のものとは思えないほど幻想的で
まるで僕がいるこの場所が現実には存在しないのではないかと思わせる。

桜の幹にもたれかかったまま
僕と彼女は手を繋ぐ。
僅かな間しか出来ない逢瀬を少しでも楽しむように。

「また……会えるかな?」

彼女に尋ねる。

「私はいつでもここにいるから……」

彼女が答える。
そう、彼女はいつでもここにいる。
こうやって桜の花が咲く頃に、いつだってこの木の下にいる。

だから僕はこうやって毎年ここに来てしまう。
彼女に会いに。
彼女は僕を引き寄せる。
僕が彼女を忘れないように。

人気の無い森の中。
たった一本だけ咲く桜の木の下。
僕と彼女の逢瀬は繰り返される。

僕が彼女を永遠に自分のものにしたいと思って
彼女をこの木の下に埋めたときから。

「じゃあ、また来年会いにくるね」

そう言って彼女の手を離す。
彼女の方向を見ずに桜の木から離れて行く。

「また……会いに来てね」

背後から彼女の声が聞こえて、彼女の気配が消える。

振り返ると、満開だった桜の花は全て散っていた
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[ 2007/01/03 10:59 ] 番外編 四季 | トラックバック(-) | コメント(-)

花火 

「まったく、ユキちゃんらしいね」

僕の言葉に彼女はそう答える。
二人で暮らすマンションの窓から見える花火。
一瞬だけ大きく輝いて、すぐにその姿を消してしまう。
そんな花火を僕は好きじゃないと呟いた。

「心の中に残る綺麗さっていうのもあるんだよ」

儚いからこその美しさがあると彼女は言う。
一瞬だけ目に映るから花火は美しいのだ、と。

でも、僕は続く美しさを求めてしまう。
花も枯れる。
形があるものもいつかは崩れてしまう。
常に同じであるものなどこの世には無い。

それでも僕は永遠を求めてしまった。

花火と彼女を重ねて見てしまったのだろうか?
窓辺で花火を眺めている彼女が
僕にとって、とても儚いものに見えてしまった。

このまま……彼女を永遠なものにしたい。

衝動的に僕の中に浮かんだ想い。

彼女にそっと近付き、手に持ったタオルで彼女の首を絞める。

僕の腕に抵抗する彼女の爪が食い込む。
少しずつ血の気を失っていく彼女の顔。
彼女の抵抗する最中、僕と彼女の目が合った。
僕の目を見て、彼女の抵抗する力が無くなる。

彼女の苦悶の表情が僕の瞳を見て
穏やかな笑顔に変わる。

彼女は永遠に僕のものになることを承諾してくれた。

そのまま彼女の首にかかるタオルにさらに力を込める。
彼女を僕のものにするために抱きしめる代わりに強く……強く。

こうして、彼女は永遠に僕のものになった。
美しい姿のまま、僕を愛した彼女のまま。

彼女を抱きしめて、僕は満足に浸る。
僕の中で永遠に続く花火を手に入れた満足に、僕は浸る。
[ 2007/01/03 10:58 ] 番外編 四季 | トラックバック(-) | コメント(-)

落ち葉 

一人になりがらんとした部屋の中。
いつも僕は寂しくなり、彼女の住む部屋のドアを開ける。

ドアを開けると同時に彼女の部屋の明かりが灯される。
小さな、ほのかな明かりに照らされる
蒼ざめた彼女の美しい顔

その表情は永遠に僕のものになった時のまま。
いつでも僕に向かって微笑みかけている。

冷え切った彼女の手に優しく触れる。
体温を失った彼女の体に、僕が触れる部分だけが温かみを帯びる。

でも、この冷蔵庫を彼女の部屋にするのも限界なのかもしれない。
ひと夏をこの冷蔵庫の中で過ごした彼女の体は
儚くも崩れていこうとしている

彼女の姿は美しいままで僕の中に永遠に留めよう。

僕は彼女を連れて山の奥、人の近寄らない奥深くまで来た。
道中は落ち葉で作られた絨毯に紅く彩られている。

やがて、周囲の木を避けるように
一本だけ離れて生える木を見つけた。
彼女をその木の幹にもたれかからせ
僕は根元に大きな穴を掘る。

やがて穴の大きさが彼女の大きさになったとき
僕は穴の中に彼女を横たえる。
横たわる彼女と長い、長いキスを交わし
僕は彼女の上に土を覆いかぶせる。

「じゃあ、また会いに来るね」

土の下に眠る彼女にそう告げてその場所を後にする。
僕はこの場所で彼女との永遠を手に入れた。
[ 2007/01/03 10:57 ] 番外編 四季 | トラックバック(-) | コメント(-)

雪 

「こんな日に来るなんて、珍しいね」

雪の降る日。
僕は彼女の眠る木へとやって来る。
そこには姿を変えながらも美しいままの彼女が佇む。
いつもと違う状況の僕の訪れに彼女は驚きを隠さない。

「ああ、思うところがあってさ」

勘の良い彼女のことだ、すでに気付かれているのかもしれない。
でも僕は彼女の元に訪れた理由をあえて隠す。

ここに来た目的、彼女との別れを告げること。

その体を失い、僕の中で永遠となったはずの彼女。
なのに僕の中でその姿を変え続ける彼女。

僕はただ永遠を望んでいるだけなのだ

いつものように彼女と手を繋ぐ。
これまでは僕と彼女の永遠を確認できるこの儀式。
その時に僕は彼女に別れを告げることにした。

「これで終わりにしたいんだ」

彼女の答えは分かっている。
ここにいる彼女は永遠の存在でも何でも無いから。
今、この場所にいる彼女は僕の作ったただの幻。
彼女は僕との別れを受け入れて
そして、僕は次の永遠を探す。

そうなるはずだった。

僕の予想に反して彼女は首を横に振る。
どうしたんだ?
僕は心のどこかでまだ彼女と離れるのが嫌なのか?

「――離さない」

彼女がそう言いながら僕の手を強く握る。
その手を離そうとするがまるで現実に何かに掴まれているように
彼女の手を離すことができない。

急に今まで愛しかったはずの彼女に僕は恐怖を感じた。
――逃げなければ!
心の中ではそう思っているのに
手も、足も、体が動かない。

彼女の手から逃れられないまま
周囲には雪がちらつきはじめる。

「寒いんだ! 離してくれ!」

「駄目よ……」

逃げることも叶わぬまま
雪はやがて吹雪に変わる。

「――眠い……」

体温が下がったからだろうか。
僕は猛烈な眠気に襲われる。

「眠っていいよ……」

彼女が優しく僕に微笑む。
いつの間にか、僕は彼女と手を握り合ったまま
彼女に膝枕をされていた。
僕を見下ろしながら優しく彼女が微笑む。

彼女に見守られたまま……僕は深い眠りについた




それから季節が流れ
深い森の中に一本だけ立つ桜の木。
満開の花の下、幹に眠るように横たわる男の死体。

男の体には桜の木から伸びた枝が
まるで男を抱きかかえるかのように幾重にも巻き付いていた。

男は分かっていなかった。
自分だけでなく
自分を愛する彼女もまた男に永遠を求めていたことを
[ 2007/01/03 10:56 ] 番外編 四季 | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

黒矢 一実

Author:黒矢 一実
主に短編小説を書いています。
現在のところ更新は不定期です。
コメントを頂けると非常に嬉しいです。
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