僕は狂っていく~ぼくるい~

創作小説「僕は狂っていく」まとめブログです。 ジャンルは現代モノです。 基本的に「奇妙な話」です。

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序章 

気が付くと私は神社のお祭りのような場所にいた。
参道のような石畳の道、その両脇に並ぶ夜店。
上から釣られた電灯のほのかな明かりに照らされている。
ただ、お祭りだろうとは思うのだけど
それには不似合いなほど人通りは少ない。
周囲を見回してもほとんど人がいないのだ。
遠くに2,3人見える程度。
とてもお祭りには見えない雰囲気だ。

「おじょうちゃん、遊んで行かないかい?」

ふいに声をかけられた。
声が聞こえた方向を振り向くと
愛想の良さそうなおじさんが屋台の中でニコニコこっちを見ながら笑っている。
屋台のテントには『たますいくい』と書かれている。
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[ 2007/01/03 11:59 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

誘い 

「どう? 遊んでみないかい?」

ニコニコ顔のままおじさんが私に再度尋ねてくる。
屋台の中で座るおじさんの目の前には
大きな水槽に水をはって、スーパーボールのような玉を浮かべたものが置かれている。
ふうん、せっかくだから少し遊んでみようかな。
そう思ったのだが、自分がお金を持っていないんじゃないかと気が付いた。

どういう経緯でこの場所に来たかも思い出せないが
いつも自分の財布を入れて持ち歩いている鞄を今日はなぜか持っていない。
さすがにお金を持っていないと遊ぶことすら無理だろう。

「ごめんね、おじさん。私、お金持ってないんだ」

ニコニコ顔のまま私を見ているおじさんにそう謝る。
せっかくお祭りに来て、何も遊べないのは残念だが
さすがにお金を持っていないのだから大人しく帰るしかない。
[ 2007/01/03 11:58 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

財布の中身 

「何言ってるんだい、その手に持ってるのは財布じゃないのかい?」

おじさんに言われて自分の左手を見る。
さっきまで気が付いてなかったけど
巾着のような袋を握っている。
袋の中を覗くと中には小銭がいっぱい入っている。
というより、1円玉ばっかり

「財布だけど、全然中身が入ってないよ」
1回100円くらいなものだろうとは思うけど
巾着の中に1円玉が100枚も入っているように見えない。
仮に入っていたとしてもいきなり1円玉を100枚も渡されたら
おじさんも大変だろう。

「1回1枚だけど、やってみないかい?」

おじさんが私の財布の中身を見透かしたようにそう聞いてくる。

「え? 1枚って……財布の中に1円玉しか入ってないけど?」
「じゃあ1回1円でいいや」

えらく気前の良い話だとは思いながら
おじさんも人が来ないのでよほどヒマなのだろうと勝手に納得し
せっかくお祭りに来たのだから
遊ばせてくれると言うなら、せっかくだし遊んでみようという気になる。

おじさんに1円玉を1枚渡し、プラスチックに薄い紙が貼られたポイを受け取る。
[ 2007/01/03 11:57 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

すくえない 

「さあ、頑張ってすくってね」

おじさんに応援されながら、ポイを水の中に沈める。
浮かんでいる玉の下にポイを潜り込ませ
一気にすくいあげようとした、が失敗。
水に濡れて脆くなったポイは玉の重さに耐え切れず
あっさりと破れてしまった。

「おじさーん、全然すくえないよぉ」

いくら安い遊びとはいえ、こうもあっさりと破れてしまうと
文句のひとつも言いたくなる。

「ははは、コツがあるんだよ。もう一回やってみるかい?」

ニコニコ顔のおじさんの言葉に挑戦意欲をかきたてられ
私はおじさんにもう一度1円玉を渡す。
が、やっぱりあっさり破れて玉はすくえない。

「もぉー、やっぱり全然すくえないよぉ」
[ 2007/01/03 11:55 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

玉 

破れたポイは早くも20個を越えていた。
その間、玉はひとつもすくえていない。

「コツはね、手早く、慎重に、だよ」

私から1円玉を受け取り、新しいポイを渡しながらおじさんが教えてくれる。
こうなったら意地でも玉をすくってみたい!
そんな気持ちになっていた私は何度も懲りずにチャレンジする。

40個もポイが破けたころ
初めて一つの玉をすくうことに成功した
半透明の薄いピンク色をした玉。
すくうまではスーパーボールのようなものかと思っていたが
手にとってみると感触はビー玉のように硬く、スベスベとした手触りだった。

そして、なぜだか分からないけど
この玉を手にした時、
一つでも多くこの玉をすくわないといけない
そんな気持ちになった。
[ 2007/01/03 11:54 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

最後の一枚 

「おじさん! 次!」

巾着から1円玉を取り出しおじさんからポイをもらう。
やっと一つはすくえたものの
コツを覚えたというには程遠く
玉をほとんどすくえぬまま巾着の中の1円玉は次々と姿を消していく。

巾着の中の1円玉はとうとう残り1枚になっていた。
すくえた玉は3つ、財布の中には1円玉が1枚。

「どうする? まだやるかい?」

おじさんに聞かれる。
最後の1枚だけど、ここまできたら一つでも多くすくってみたい。
私は最後の1円玉をおじさんに渡す。

受け取ったポイを慎重に水の中に沈める。
淡い水色の玉に下に潜り込ませ
素早くその玉をすくいあげる。

結果は……成功
ポイは破れてしまったけど
水色の玉は私の手の中に収まっていた
[ 2007/01/03 11:52 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

決まり 

「はい、おめでとう。全部で4つだったね

おじさんが私の手から玉を受け取り
小さなビニール袋に入れて手渡してくれる。

それを受け取り、屋台を立ち去ろうとした時。

「はい、さっきもらったお代だよ」

おじさんが私が渡した1円玉を返してくる。
「全部使い切った人には全部返す決まりなんだよ」
ニコニコしながら私に1円玉の山を返してくれるおじさん。

「じゃあ、これでもう一回やってもいい?」
おじさんに尋ねてみる。
でも、おじさんはニコニコ顔のまま首を横に振った

「ダメなんだよ。それも決まりだからね」
おじさんにそう言われて
あきらめてその場を立ち去る私。

水槽の中にはまだ100か200か分からないけど
沢山浮かんだ玉が残っている。

すくってあげられなくて……ごめんね

無性に申し訳ない気持ちになり、
浮かんでいる玉たちにそう心の中で謝る。
[ 2007/01/03 11:49 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

男の子、女の子 

屋台から出ると、私を待っていたかのように
屋台の外に二人の子供が立っていた。
一人は男の子、もう一人は女の子
歳は私を同じくらいだろうか。

「どれくらい取れた?」

男の子が屈託の無い笑顔で私に聞いてくる。

「あ……4つ」
右手に持ったビニール袋を男の子に見せる。

「4つか、頑張ったね!」
女の子の方が私にそう言ってくれた。
頑張った、そう言われて
なぜだか本当に頑張ったな、そんな気分になった。

私は2つしか取れなかったんだ……」
女の子が少し残念そうに私にビニール袋を見せてくる。

僕も3つ、君が一番多く取れたね」
そう言う男の子の手にも玉が3つ入ったビニール袋があった。

全員で9つかぁ
せっかく頑張ったけど
多いのか少ないのか分からないその数に
喜びと悔しさが入り混じったような気持ちになる。

「じゃあ戻ろうか」
誰とはなしにそう言って、三人で神社の出口に向かって歩く。
神社の出口の鳥居にさしかかったころ

じゃあ、またね
また、誰ともなくそう呟いた。
――そこで私の記憶はまた途切れる。
[ 2007/01/03 11:45 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

記憶 

気が付いたとき、私は病院のベッドで寝ていた
看護婦さんが慌しく動いて
お医者さんが色々と私に聞いてくる。

どこも痛くない?覚えていることはある?気持ち悪くはない?

質問攻めにあいながら
少し首をひねって自分の体を見てみる。
腕や足に幾重にも巻かれている包帯

はっきりしない頭で記憶を辿る。
私は春休みを利用して
お祖母ちゃんの家に遊びに行っていた。

そして、帰りの飛行機に乗って。
飛行機が飛び立って、一時間も経った頃
急に機内が慌しくなって
周囲にいる大人の人たちが騒いでいて

――そこで私の記憶は途切れていた
[ 2007/01/03 11:40 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

奇跡的 

病院にはこないだまで会っていたお祖母ちゃんや、父さん母さんがお見舞いに来たり
色んな場所から私を元気付ける手紙やお見舞いの品が
知らない人からどんどん送られてきた。

お見舞いに来た母さんから聞かされたことだが
私が乗った飛行機が墜落したそうだ。
乗っていたほとんどの人が死んでしまい
私を含めて少しだけの人が奇跡的に助かった、らしい。

私の気持ちに配慮してか、事故に関しての詳しいことは
誰も聞かせてはくれなかった。

ただ、私以外の沢山の人が死んだこともあり
生き残ったことを素直に喜べない、そんな気持ちだった。
[ 2007/01/03 11:35 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)

終章 『すくえなかった』 

あの飛行機事故から十数年が経った。
あの時のことは未だに思い出せない。
高い場所が苦手になったり、飛行機を見ると震えが止まらなくなったりもした。

そんな自分を乗り越えるため。
私は当時の新聞や雑誌の記事から
あの事故のことを調べてみた。

凄惨な事故であったことは記事から推測するに容易く
私は自分が生き残ったことの幸運さを思い知らされることとなった。

北海道発、大阪行きの航空機
離陸直後にエンジントラブルが発生。
520人の乗客のほとんどが死亡。
座席の位置関係によって生存の明暗が別れた。

生存した乗客は12人だったそうだ
幼いころの私を含めた生存者の写真が
ゴシップ誌に掲載されていた。

私を含めて生き残った幸運な12人。
その写真を眺めると見覚えのある顔があった。
あの不思議な神社の祭りで会った
男の子と女の子の写真だ。

そして、その写真を見たとき
やっと私は理解した。
あの時の『たますくい』の意味を。

『玉』を『すくう』ことに挑戦したのが三人。
そして、『すくわれ』た『玉』が九つ。

水槽に玉がいくつあったかなんて覚えていない。
でも、きっと五百個の玉があったのだろう。

「ごめんなさい……」

私は涙を流し、あの時『救えなかった』たくさんの『』に謝ることしかできなかった。
[ 2007/01/03 11:30 ] 第十三章 たますくい | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

黒矢 一実

Author:黒矢 一実
主に短編小説を書いています。
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