僕は狂っていく~ぼくるい~

創作小説「僕は狂っていく」まとめブログです。 ジャンルは現代モノです。 基本的に「奇妙な話」です。

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記憶の狭間に 

部屋に戻った時、俺の記憶は無かった。
正確に言えば『意識を失っていたためどうやって部屋に戻ったのか分からない』そんな状況だったのだ。

喫茶店での会談の後、俺は一人で姉ちゃんの部屋に向かうことになった。
瞳さんとトシとは一旦別れて、姉ちゃんと伊藤さんと一緒に姉ちゃんの住む部屋に向かった。
部屋の前で伊藤さんが席を外し、俺と姉ちゃんの二人だけで部屋に入る。

そこで俺が失踪してから現在まで、俺が何をしていたのか。どこに住んでいるのか。なぜ失踪したのかなどを詰問された――が、途中までしか記憶が無いのだ

姉ちゃんの気に障る話題――例えばゴーストライターとしてBL小説を書いていたこと等――そんな話題になる度にスリーパーホールドやら関節技、投げ技などを食らい、遂には途中で意識を失ってしまっていたようなのだ。
気を失ってしまった後はヒトミと入れ替わり、ヒトミがしどろもどろになりながら姉ちゃんの詰問に答えていた……らしい。

「ヒトミちゃん……泣きながら帰ってきたわよ」

意識を取り戻し、ヒトミと入れ替わった後に瞳さんから言われた言葉だ。
どうやらヒトミまで意識を失うという状況は避けられたようだが……慣れて無い人間にアノ技を食らい続けるのはさぞキツイことだっただろう。

――後でヒトミに謝っておかないとな。

何はともあれ、そんな感じで瞳さんが宿泊する部屋まで辿り着いたのだが……俺が意識を失った状況は少しやっかいな事態を招いてしまっていた
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[ 2007/01/11 16:11 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

愛しさと、切なさと、拷問と。 

姉ちゃんからのプロレス技の応酬の後には……瞳さんの『洗濯ばさみ』攻撃が待っていたワケで。

瞳さんの質問に対する俺の返答がつまる度に俺の頬に洗濯ばさみが増えていく。
積もり積もった質問が全て終わる頃には俺の顔面にある洗濯ばさみの数は二十を越えていた。

「――もう、隠してることは無いわよね?」

俺の頬から洗濯ばさみを外しながら瞳さんがもう一度確認するように聞いてくる。
ヒリヒリする頬を撫でながら、

「う、うん。無い……はず」

瞳さんってこんな性格だったっけ?と思いながら瞳さんに答える。

俺が失踪していた二年の間、瞳さんは逞しく変わったようだ。
外見こそ大きな変化は無いが、その佇まいには何か落ち着いたものを感じさせる。
芯が強くなったというか……地が出ているというか。
以前の瞳さんにあった『儚さ』みたいな部分が薄くなっている。

「……あんまり心配かけないでよね」

先ほどまでの拷問タイムの時とはうってかわった優しい眼差しでこちらを見ながら。
――話が伊藤さんの事に及んだ時は本当に怖かったな。

心配をかけまいと失踪したことが周囲にさらなる心配をかけてしまっていた。
自分の考えの至らなさ、弱さを痛いほどに実感した。

――瞳さんも、トシにも……みんなにこれほど心配させてたんだな。

「ごめんね……」

心から、本当に心の底から瞳さんに謝罪する。
かつて、自分が瞳さんを守る、ずっと傍に居ると心に誓っていたのに。
自分の弱さが原因で姿を消してしまった――そんな思いが俺を俯かせてしまう。

瞳さんに謝罪し、俯いてしまった状態になって二、三秒もしない頃だ。
――フワっと。
まるで羽のように、眠っている子供に毛布を掛けるような優しさで俺の両肩を覆う感触が伝わってきた。

顔を上げると――そこには優しく微笑む瞳さんの顔があった。

「良いんだよ……こうして……戻ってきたんだから」

そう言うと、瞳さんの顔はさらに優しくなり、慈しむような眼で俺をじっと見つめる。
俺の両肩の掛けられた瞳さんの腕に少し力が入るのを感じた。
そのまま、俺も自分の両腕に力を込め瞳さんを抱き締め返す。

短い沈黙の時間が流れた後、俺たちは短いキスを交わした
[ 2007/01/11 16:10 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

『おあずけ』を食らう犬の気持ち 

交わした唇をそっと離し、お互いに見つめあう。
言葉は何も話さないが目と目で通じ合う――そんな感じだ。

その状態で数秒の沈黙が流れた後……俺はもう一度瞳さんを強く抱き締める。

「瞳さんっっ!!!」

その勢いで二人で腰掛けていたベッドの上に押し倒……そうと思ったのだが。

「ストーーーーーーップ!!」
「へ……?」

昨日の夜の続きになだれ込むはずが瞳さんの強い制止で中断される。
抱き締めた俺の腕を切るように瞳さんは自分の腕を真っ直ぐに伸ばして俺との距離を広げる。
俺と瞳さんの間に五十センチほどの隙間が開く。

勢いを殺がれたのと、隙間を開けられたことに俺が意気消沈するのを先回りするように瞳さんが制止をかけた理由を口にした。

「……っと。 その前にヒトミちゃんにも話があるんだけど
「ヒトミに?」
「うん。 ちょっと聞きたいことがあるの」

瞳さんがヒトミに何を聞きたいのか分からない。
しかし、他ならぬ瞳さんからの申し出だ、無碍に断ることも出来ない

「ちょっと待って」

瞳さんに一言断りを入れてから、俺は自分の内側に意識を集中してヒトミに話しかける。

[ 2007/01/11 16:09 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

杞憂 

意識を内に集中して自分の中に入り込むようなイメージを作る。
作業としては手馴れたもので数秒も経たないうちに俺は自分の頭の中にある『部屋』に入り込む。

そこには大きな広間になったような場所があり、そこを通じて意識を外に出し入れする。
ヒトミとの交代もここで行われるし体を寝かせている時はヒトミと会話することも可能だ。

つまり、俺とヒトミがこの広間に居る現在は外にある俺の体は傍目から見れば眠っているように見える。
眠らずに交代する場合はどちらかがこの場所に待機しているし、意識を休めたい――普通の人が眠るといったような状態に入りたい時にはお互いに断りを入れて交代できない旨を伝えてから広間を抜けた場所にある『ドア』から自分の部屋に入って眠るようにしている。

先ほど瞳さんからヒトミがズタボロになって帰ってきたことを聞いていた俺は
ひょっとするとヒトミは自分の部屋に入って寝てしまっているのではないかと案じていた。
――が、それはどうやら杞憂に終わったようでヒトミは広間にあるテーブルに腰掛けていた。

ちょっと深刻な表情を見せながら。
[ 2007/01/11 16:08 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

扉ヒラク 

「あ……仁!!」

部屋に入ってきた俺に気が付いたヒトミが声を上げる。
先ほどまで見せていた厳しい表情は解け、いつものヒトミの顔に戻っていた。
厳しい顔に見えたのは……気のせいだったのだろうか?

「瞳さんがさ、ヒトミと話したいことがあるんだってさ」

少しだけ沸いた疑念を無理矢理に閉じ込めて、俺はヒトミに用件を告げた。

「え? 瞳ちゃんが?」

自分を指差しながら、俺の用件をヒトミが確認するように聞いてくる。
まさか自分に用事があるとは思わなかったのだろう。
俺だってそうだ。
久しぶりに会っている恋人を差し置いて……恋人の別人格に用があるなんて
ちょっと嫉妬してしまいそうになる。

ヒトミの質問に無言のまま頷く。
瞳さんがヒトミにどのような用件があって呼び出すのかは聞かされていないし、時間があればヒトミに先ほどの深刻な表情の理由を聞いてはみたいが……あまり瞳さんを待たせるのも悪い

まずは瞳さんのヒトミへの用件を済まさせ、次に俺と瞳さんの時間を満喫させてもらう。
それらが終わってから……ヒトミの深刻な表情の理由を聞けばいい。
長い付き合いだ、それくらいの優先順位で許されるだろう、と俺は考えた。

「そっか、じゃあチョットだけ表に出てくるね」

そう告げてヒトミが部屋から出て行く。

ヒトミが出て行った後の部屋をグルっと見回して――俺はヒトミの表情が険しかった理由が分かった。
[ 2007/01/11 16:07 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

ヒライタトビラ 

――ドアが……開いていたのだ。

俺の心の奥、とでも呼ぶべき場所がこの広間。
そして、この広間にはドアが幾つかある。
それぞれのドアから俺の部屋、ヒトミの部屋に繋がり、中には俺自身も開けたことのないドアもある。
きっと過去の記憶に繋がるドアなどもあるのだろうが……ヒトミとこの場所を交代で使うようになってからもそれらの部屋のドアを探ったことは無かった。

そして、その立ち並ぶドアの一つが――開いていたのだ。

その現象がヒトミの表情を険しくさせていたことはすぐに理解できた。
そして、その現象が何を意味するのか……それもすぐに分かった。

それは……すなわち。
『もう一人の俺が再び行動しようとしている』ことを意味していた。

俺が家族や瞳さん、トシたちの目の前から姿を消す理由となった――。
もう一人の俺が生まれ出た理由、それはあらかた解明されていた。
解明できていた、そう思っていたから俺はその原因を遠ざけ、そいつを閉じ込めることに成功していた……はずだったのだ。

だからこそ、長い空白を経て瞳さんとの再開を果たす決心も着けたし、このまま瞳さんと共に故郷へ帰り元の生活へ帰ろうと考え出していたのだ。

――なのに……なのに!!

『もう一人の俺』を閉じ込めていた部屋が開いている。
俺の心の中に――文字通り黒い影が一筋染み込んできているのを感じた。
[ 2007/01/11 16:06 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

覚醒 

「そ……んな」

現在、俺が居るのは自分の心の中だ。
そんな場所で声を出すというのは変なものだと思うが、俺は声を出して立ち尽くしてしまっていた。
俺が普通の生活を捨てることになった元凶。
俺の幸せを願い、存在を停止させたヒトミが再び目覚めることになった原因――。

ソイツはある企業が開発した薬によって作り出された『俺の中にある悪』を集めた存在。

殺意。
害意。
凶暴性。
独善性。

それらを凝縮し、さらに煮詰めたような――狂気
意味も無く、ただ快楽のために人に害を成すことが当然だと感じるような感覚。

誰が何の目的でその薬品をバラ撒いたのか。
どうすればソイツを押さえ込むことが出来るのか。

嘗て、俺はこの状態になってしまった時、コイツの存在を知らずにいた。
コイツの命じる感情のままに――瞳さんを犯し、トシをも殺してしまいたい――そんな感情が自分の内にあると知り、俺は昔の生活から姿を消したのだ。

その逃避の最中だ。
ある日、突然ヒトミが夢の中で俺の目の前に現れた。
俺の中に眠っていたもう一人の人格、ヒトミのおかげでコイツの存在を俺は知り、ヒトミと協力することで何とかコイツが活動を始める前に閉じ込めることに成功していたはず……だったのだ。

――なのに、それなのに!

ドアが開いてしまっていて、ソイツの姿が部屋には見えない。
ソイツは再び俺の中で活動を再開しようとしている。
しかも、俺やヒトミの目に触れない場所で――。
[ 2007/01/11 16:05 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)

断ち切る 

「あ……仁、お待たせー!」

程なくしてヒトミが部屋に戻ってきた。
瞳さんと何を話して来たのか分からないが、その表情はいつも通り、明るいヒトミの顔に戻っていた。
そんなヒトミの表情を見て、俺は『もう一人の俺』の話を切り出すかどうか、僅かに戸惑った。

「ああ、瞳さんとの話、終わったのか?」

他の話題でワンクッションを置いてから本題に――。
その僅かな間の為に、俺はヒトミに機先を制されてしまった。

「うん、楽しかったよー! 早く仁も戻っておいでよ

――部屋の扉が開いてしまっている。

そんな俺達にとって重大な出来事があったはずなのに――ヒトミはその事を話題にさえ出さない
ヒトミの行動に違和感を感じ、話題を強引にでも扉の話に変えようとする。

「い、いや。その前に話があるん……」
「そんなの後で良いでしょ! 瞳ちゃん、ずっと待ってるんだから!」

強く、話題を強引に断ち切って、俺を無理矢理にでも瞳さんの元へ行かそうとするようなヒトミの強い口調に面食らってしまった。
言葉の接ぎ穂を失い、口をパクパク動かすことしか出来なくなってしまう。

「ほら! 早く!!」

まるで急き立てるように、ヒトミは広間から俺を追い出そうとする。
瞳さんのことも重要だけど……『もう一人の俺』のこともかなり重大なことなのに。
何故、どうしてヒトミはその事を一刻も早く俺に相談しようと思わないんだ?

「いや、瞳さんのことより……」
「もう! 私、自分の部屋に戻るからね!!」

俺との話を強引に断ち切って、ヒトミが部屋に戻ろうとする。

――一体、どうしたっていうんだ!?
[ 2007/01/11 16:04 ] 第七章~悪~ | トラックバック(-) | コメント(-)
プロフィール

黒矢 一実

Author:黒矢 一実
主に短編小説を書いています。
現在のところ更新は不定期です。
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